トランプ大統領の憂鬱
トランプ大統領にとって目の上のタンコブ的存在が、米国連邦準備理事会(FRB)の第16代議長であるジェローム・パウエル議長です。1975年にプリンストン大を卒業した彼はジョージ・ブッシュ政権において財務次官を務め、2012年に連邦準備理事会(FRB)の理事に就任し、2014年に再任されています。その後ジャネット・イエレン議長の後任として、トランプ大統領自ら指名された人です。そんな大統領から指名されたパウエル議長ですが、なぜ大統領の目の上のタンコブ的な存在になってしまうのでしょう。
パウエル議長の功績
パウエル氏が議長になったころのアメリカは、トランプ大統領の政策である”America First”政策で景気が絶好調という世相でした。しかし中央銀行の絶対悪となる現象が”インフレーション”です。アメリカの景気が急上昇していたそのころ、同じようにインフレ懸念も上昇していきました。中央銀行にとってインフレを抑えるためには当然のこととして”利上げ”を行います。そしてその判断は議長であるパウエル氏が決定してきました。そのたびに株価が下落等するのですが、アメリカ経済の底堅い消費マインドが強いのかまた再び株価も上昇をしだします。パウエル氏就任以来のアメリカ経済は追加利上げの経済でした。
株安を恐れるトランプ大統領
国家元首として最も重要なポイントの一つとして、”完全雇用の実現”があります。経済とは一般に金儲けの概念だという誤解がありますが、実は経済とは”経世済民”即ち政治そのものなのです。歴史的に見てアメリカ社会の雇用はあまり良くなかったのですが、トランプ就任以来、雇用統計はひたすら改善を繰り返していきました。
連邦準備理事会としてインフレ懸念を抑えるたびに利上げを繰り返します。そしてそのたびに債券価格上昇と株価下落という結果に見舞われます。
トランプ大統領は次の大統領選も出馬する意向です。その彼にとって株価下落は致命的な汚点となりかねません。
パウエル議長が恐れる利下げによる負の遺産
米中貿易戦争が激化しているが、依然としてアメリカ国内の景気については目立った不安要素がありません。この6月の雇用統計は数字が芳しくなかったのですが、おおむね良好のようです。そうした中で、株価を維持するためだけに行う”利下げ”は未来への負の遺産となるかもしれないのです。すでに低格付社債市場は拡大しており、企業債務も膨らんでいます。このタイミングで長期金利の利下げを行えばさらに債務が肥大化していきます。そしてそうした社債を保有する金融機関のリスクも増大していくのです。
低金利の世界では利子のつかない金や原油といったコモディティ相場の上昇にもつながります。同じく仮想通貨ビットコイン相場も急上昇中です。
利下げをする目的が米中貿易戦争に絡む他国との通貨戦争なのであれば、アメリカにとって非常に矛盾をきたす結果となるかもしれません。それは完全雇用が達成されているからです。その状態で利下げをしようものなら需要がさらに刺激され、アメリカの貿易赤字がさらに大きく増加するに違いないからです。需要に供給が追い付かないので、さらに海外からの輸入という結果となるためです。
そもそも大統領は議長を解任できるのだろうか?
そもそも連邦準備法において、大統領が連邦準備理事会理事や議長を解任するにあたっては”正当な理由”が求められ、決して”任意”での解任はできないと解釈されています。正当な理由には”意見の不一致”は含まれないとも解釈されたいるのです。連邦準備理事会は法によって守られている機関なのです。
ちなみに正当な理由とは、不正を働いたり、著しく能力に欠けるなどとなります。
どうなる?アメリカ金利
6月FOMC声明でパウエル議長は利上げに関して”我慢強く”という文言を削除しました。この流れをみて市場では”利下げ観測”が拡大しており、ダウは最高潮に達し、為替は円高が進行中でした。しかし後日、議長は利下げには否定的な反応を示しました。そのニュースを受けて為替がドル高へ傾きつつあります。
トランプ大統領は実際、自分がパウエル議長を解雇できるとは信じていないのでしょう。最近の発言では「降格させる!」に変っています。
しかし、この降格に関してももし実行されれば為替は大きく円高へ触れてしまうでしょう。
毎日トランプ大統領のTweetで金融市場が一喜一憂しています。
次回再選を果たす決意のトランプ大統領と、人気を全うする意思を表明したパウエル議長。今後もこの二人の応酬は市場にとってとても危険なものとなるのでしょう。
この記事へのコメントはありません。